実印と電子認証の関係;日本独特の障害

行政手続きから印鑑を廃止する件は、住民票の写しを求める際に用紙に押す「三文判」の役割について検討されているような気がします。したがって、当たり前のように「実印は除く」と。

実印こそが、本来の印鑑の役割を果たしているといえそうで、この役割と、電子認証に代えることができるか見ていきたいと思います。

実印とは、市区町村の役所に登録した、公的に認められたハンコのことを言います。印鑑登録とセットです。印鑑登録をするといつでも印鑑証明書を発行してもらうことができます。ここが重要です。この証明書があることで、「確かに本人が実印を使って押した書類」であることが認められます。

大事な契約、例えば、マンションや家・土地などの不動産を購入・売却するときや、
自動車を購入・売却するときに、これが必要になります。遺言や相続の場面でも登場します。書かれた書類が確かに本人によるものであることの確認が目的です。

日経新聞で毎週土曜日、3回のシリーズで「ハンコ文化を問う」といううちの2回目、10月31日に「電子署名の普及阻む『実印』の発想」という記事がありました。

「欧米では20世紀末から21世紀にかけて登場した電子商取引にも素早い対応が進んだ。インターネットによって様々な商品の流通や契約が⾏われるようになり、署名を電子的に処理する技術が米国で発達した。」ご存知のとおりです。

「米国でも地方の行政機関や公⽴の学校などでは紙の書面に住所を記載するスタンプが以前から使われている。署名記事る利用についてICカードを使った電子署名の作業を効率化するため、弁護士が署名スタンプを利⽤することもあった。」ここが重要です。

書類が真正であることを証明する目的で第三者による認証に移行しやすい環境がありました。ですので、米国では、インターネット上の取引の際にも、「秘密鍵(と呼ばれる暗号データ)」を厳重に保管する、いわゆる「立会人型」サービスが普及しています。

同じようなことを日本でも行う動きがあったのですが、「実印」の発想で、この「秘密鍵」を自分あるいは弁護士が持つということになってしまいました。これでは、いくら複雑な手続きで書類をこしらえても、「自分が作ったから自分のものなのだ」と勝手に主張しているにすぎず、同様のことを模倣することや改ざんすることも可能になってしまうことから、書類が真正であることを証明するのには片手落ちになってしまうということです。

単純に、実印を電子印に代えれば済むということではなく、社会全体の仕組みを見直す必要があり、ここでは、日本独自に長くしみ込んだ、実印の発想を変えていく必要があると理解しました。

そういうことがあるので、やはり、三文判は比較的簡単に廃止できても、実印を何かに置き換えるということは単純には運ばないようです。

(イラストの著作権はジブリです。本文とは関係ありません。「コクリコ坂から」のものです)