宅建士試験から実務的な改正民法の事例④
10月に実施された宅建士の試験問題にも多くの民法改正の内容に関連する問題が出されました。契約関係や相続についてです。約120年間ほとんど変わってこなかった「民法」の大改正があり、そのあたりを勉強していたおかげで、試験では役に立ちました。
実務面で役に立ちそうな点を拾ってみたいと思います。50問中14問の民法関係の問題を4回のシリーズで振り返ります。本日は、その4回目、最終回です。
問11~14は、民法に加えて、借地借家法の知識を問う問題が含まれています。
問11は、借地の契約期間に関する問題です。居住の用に供する建物を所有する目的で、30年間の土地の賃貸借契約が締結されています。正しいものを選ばせる問題です。
①借地権の登記をしていなくても引き渡しを受けていれば、この契約の後に土地を購入した第三者に借地権を対抗できる
②「一定期間は借賃の額の増減を行わない」と定めた場合、近傍類似の借賃と比較して不相応になった時でも、増額や減額を請求できない
③「債務不履行により契約が解除された場合には、土地の貸主に対して建物買取請求権を行使できない」旨を定めても、この合意は無効である
④期間満了により契約を最初に更新する場合、更新後の存続期間を15年と定めても20年となる
⇒わかりましたか。正解は④でした。土地の賃借契約の更新の場合、20年を下回る合意は無効になります。
ちなみに、①は対抗するためには登記が必要、②は賃借人は「減額」を請求することはできる、③は建物買取請求権を行使できるのは契約期間満了の場合に限られるのでこの特約は有効です。借地借家法の記憶を総動員させる問題でした。
問12は、定期建物賃貸借契約に関する問題です。「定期建物賃貸借契約」とは、一定の契約期間、契約の更新がないことを契約で定めたものです。普通借家契約と比較して賃借人の権利が守られていますが、中途解約しにくいものです。
問題文では「転勤、療養、親族の介護その他やむを得ない事情があれば、解約を申し入れ、申し入れの日から1ヶ月を経過することによって、本件契約を終了させることができる」というのが正解でした。
問13は、建物の区分所有に関する問題です。分譲マンションのようなケースです。共用部分などについてのいくつかの法律の制約があります。議決権などに関するもので、詳細は省略します。
問14は、不動産の登記に関する問題です。改正民法に関する出題がありました。
「配偶者居住権は登記することができない」
ここで「配偶者居住権」とは、「夫の死亡時に、妻が住んでいた夫所有の建物について、妻の終身・又は一定期間、妻にその使用を認めることを内容とする権利」のことです。⇒登記することができるの誤りです。
なお、「配偶者は、相続開始の時、被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には、一定期間(最低でも6ヶ月間)は、引き続き無償でその建物に居住することができる」という「配偶者短期居住権」というのがあります。これは登記することができません。
通常、試験の年度の4月1日に施行されている法律が出題の前提になります。試験のよいところは、法改正の前と後の二通りを覚える必要がない点です。
一方、実務の場面では、契約期間が「4月1日」をまたぐことがありますので、場合によっては、改正前と後の両方を知っておく必要があります。
また、最近、本年度の行政書士試験の問題を目にする機会がありました。行政書士試験の場合は、憲法や行政法なども試験の範囲になりますので、民法の部分に関して、宅建試験ほど、民法改正の部分に焦点を当てた問題は多くは出題されておりませんでした。
以上、4回にわけて本年10月に行われた宅建士試験から民法に関する出題をみてきました。今年は、新型コロナの関係で、試験会場に大勢の受験生を詰め込まないという観点で、10月の試験1回だけではなく、同じ時期に申し込んだのに、第2回目として12月27日(日)に試験を受ける方がいらっしゃいます。ご健闘をお祈りいたします。
(スタジオジブリの公開されている画像のうち「となりのトトロ」からいただきました。本文とは関係ありません)