自筆証書遺言;「相続させる」と「遺贈する」

「自筆証書遺言」を3,900円で法務局が保管してくれる制度が7月10日からスタートしています。便利になりましたので、将来、もめごとにならないように、この際、何か書き残しておこうという人が増えることを願っています。

それを解説する記事のなかに「②財産を「譲る」「遺贈する」ではなく、「相続させる」と書きます。不動産の名義変更の際に「譲る」「遺贈する」との表現では、妻が単独で登記名義の申請をできなくなる可能性があるからです。」というものがありました。

自分の勉強のためにも、この「財産を譲る、遺贈する」と「相続させる」という表現では、何がどう違うのか、もう少し追加しておきたいと思います。

まず、亡くなった場合、法律上、誰が財産を相続する権利があるのかが定まっています。通常は配偶者やお子さんなどです。これを「法定相続人」と呼びます。その法定相続人に財産を移転させることが「相続」です。ですので、「法定相続人」以外の人には、「相続」という言葉は使えません。

そこで「遺贈」です。遺贈とは遺言によって財産を無償で譲ることをいいます。相手は特に制限はありません。例えば、法定相続人に対してもそれ以外の人や団体に対しても「遺贈する」と書くことができます。

☆法定相続人に対しては、「相続させる」も「遺贈する」も可能です。

では、なぜ、法定相続人に対して、「遺贈する」を用いるべきではないのか、場合をわけて「相続させる」との違いをピックアップしておきます。

◆不動産の登記

財産のなかに土地や建物などの「不動産」がある場合です。

・「遺贈する」;登記をしなければ第三者に自分の権利を主張することができない。

・「相続させる」;登記がなくても第三者に自分の権利を主張することができます。

さらに、「遺贈する」の場合、他の法定相続人全員と共同で所有権移転の登記申請をしなければなりません。このとき、法定相続人全員の印鑑証明書等が必要となり、かなり時間と手間が掛かる場合があります。また、相続人の間で相続争いが起きた場合は、他の相続人から協力が得られず登記手続きが進まないおそれもあります。

ただし、遺言執行者がいる場合は、遺言執行者と遺贈を受ける者が共同で登記申請できますので、他の相続人の協力を仰ぐ必要はありません。「遺言執行者」(例えば、配偶者)を書いておくことも重要です。

なお、「相続させる」ケースで、所有権移転の登記申請をする際には相続人が単独でできるメリットがあります。

◆借地権・借家権の場合

・「遺贈する」;賃貸人(大家さん)の承諾が必要となります。

・「相続させる」;賃貸人(大家さん)の承諾は不要です。

◆農地の場合

・「遺贈する」;遺産の全部を遺贈する「包括遺贈」の場合以外は、農地法による農業委員会又は知事の許可が必要となる場合があります。遺贈を受けた者が農業に従事していないならば、許可が下りずに登記ができない可能性があります。

・「相続させる」;農地法による許可は不要です。登記はスムーズにできます。

以上で、法定相続人に対しては「相続させる」という用語を使うべきだということがご理解できたかと思います。同様に、「あげる」「与える」「譲る」なども「遺贈する」と同じ意味となりますので、法定相続人に対しては使わない方がよろしいようです。

法改正に伴い、いろいろな本が出されると思います。せっかくの思いが、後の人の迷惑にならないためにも、念のため、チェックしてみるのがよいように思います。

(写真は、FineGraphicsさんによる「写真AC」からいただきました)