自筆遺言を保管してもらえる制度

昨日、7月10日から、自宅などで作成した「自筆証書遺言」を法務局が保管してくれる制度がスタートしました。

さっそく「東洋経済」に、「遺言書保管制度が『普通の家庭』にも役立つ理由-未成年の子がいる親は作っておくのがベター」という記事が掲載されておりました。

https://toyokeizai.net/articles/-/361190

記事によると、55歳以上の男女8000人を対象に「自筆証書遺言を作成したことがあるか」という調査について「ある」と答えた人の割合は、3.7%だそうです。

この数字を「少ない!」とみるか、あるいは、そんなにいるんだ=「多い」とみるかは見解のわかれるところです。

遺言の種類には、公証役場で作る「公正証書遺言」というものがあります。そうではない「自筆証書遺言」は、法的に効力をもつのに、家庭裁判所で検認してもらう必要があります。今回の制度は、作成したあと法務局が実物は50年、スキャンしたものは150年間保管してくれるというものです。法務局に預けるわけですから、いざというときに、従来のような「家庭裁判所での検認」という作業が不要になるというメリットがあります。

しかも、安い!
公証役場で作成する「公正証書遺言」にかかる費用が数万円~数十万円に対して、自筆証書遺言を法務局に預けるために必要な手数料は3900円で、格安です。

なにも巨額の不動産や財産を持っていない普通の人でも、「では、私も一つ、この際だから遺言書を作ってみようか」ということになれば、けっこうなことだと思います。

特に、この記事では、「普通の人」が遺言を作成するメリットとして、相続の際に未成年の子供がいる場合、その子の意思を代表させるために「特別代理人」を立てる必要があります。つまり、母親と子供は財産の配分をめぐって利害が対立する関係にあると法律はみるわけです。ちょっと面倒です。

そこで、「遺言書」があれば、そのとおりに執行することができますので、「特別代理人」を立てる必要がなくなるということです。

ですので、高額な財産がある人、あるいは、高齢で死ぬ間際の人に限定せず、働き盛りの若いうちに、こういう習慣ができるともめごとが少なくなるものと思われます。もちろん、年数が経つにつれて状況が変化するでしょうし、一度作成した遺言を何度でも書き改めることも可能です。

少しだけ、自筆証書遺言を作成する際の注意事項がありますので、覚えておきましょう。これも「東洋経済」の記事の文面からです。

① 一度書いたら消すことができない筆記用具(ボールペンや万年筆)を使う。
②財産を「譲る」「遺贈する」ではなく、「相続させる」と書きます。不動産の名義変更の際に「譲る」「遺贈する」との表現では、妻が単独で登記名義の申請をできなくなる可能性があるからです。
③必ず、遺言書を作成した年月日を書きます。「吉日」などの記載は認められません。
④必ず、署名と捺印をします。印鑑は、実印があれば実印が望ましいですが、認印でも問題ありません。
⑤記載を誤った場合には訂正印を用いて訂正することもできますが、改めてすべてを書き直したほうが無難です。

なお、財産目録などを付ける場合は、手書きではなく、パソコンで作成することが認められています。ただし、印刷したものに印鑑を押します。USBなどの磁気媒体に保存したままではダメです。

3900円は格安とはいっても、実際に預ける人がどれくらい新たに出るのか読めませんが、普通の人にとっても遺言を作っておくことが便利なことだという風潮が広まることを願っています。

(ついでながら、法務局までいかずとも、インターネットにつながっているコンビニのコピー機でスキャンすると法務局に転送される制度に発展すれば、もっと便利なのにと思うところです)

写真は、 流浪のマサじぃさんによる「写真AC」からいただきました。