外国人の創業は簡単ではないこと

これから先、少子高齢化に伴い、労働力不足が今以上に深刻になっていきます。それを補うものとして、政府は外国人労働者の受入れを積極的に行っていくとしています。「我が国の経済社会の活性化に資する専門的・技術的分野の外国人については,積極的に受け入れていく必要があり,引き続き,在留資格の決定に係る運用の明確化や手続負担の軽減により,円滑な受入れを図っていく。(法務省;出入国在留管理基本計画)」。

一挙に、欧米のようになるものではありませんが、正反両面から先進国の事例を眺めることが、数年先を見通す観点で有益と思われます。

米国はそもそも移民の国と言われています。少しデータを調べていくと、米国に移住した外国人の多くは単純労働に就いていますが、一方で、「創業」を志すケースは、移民ではない人に比べて、2倍近い高くなっています。たしかに、米国において、外国人による創業のケースでは、Intel(Andrew Grove/ハンガリー)、Sun Micro stems(Vinod Khosla/インド)、Yahoo(Jerry Yang/台湾)、Google(Sergey Brin/ロシア)といった米国を代表するIT大手企業の設立者がそうですし、それ以外の産業分野でも、成功を収めた移民の人が多数存在するようです。

日本の場合はそういうことが可能でしょうか。在留資格の認定がどうなっているのかみてみます。
そもそも、我が国に滞在が許可された外国人は、それぞれ、特定の目的の活動を行うために滞在申請し、それが認められた方です。「創業」ということは、いきなり社長=経営者として訪日したわけではなく、別の滞在目的で在留していた人が、あるとき思いついて会社を興すというプロセスになります。
もっとも、それに近いケースとして考えられるのは、「経営・管理」の在留資格です。「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動。
該当例としては,企業の経営者,管理者など。」とされています。外国企業に在籍し、経営に携わっていた人が日本法人の経営者になって訪日するようなことを想定した資格です。「創業」とは少しニュアンスが異なります。

それでは、事務・技術系の社員として訪日するケース、該当する資格は、「技術・人文知識・国際業務」です。「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学,工学その他の自然科学の分野若しくは法律学,経済学,社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動。該当例としては,機械工学等の技術者,通訳,デザイナー,私企業の語学教師など。」この資格からの「創業」は可能でしょうか。

在留資格申請の際に、「一定の条件を満たす企業等」であることを証明する文書や、その会社との「労働契約書」が求められます。すなわち、どの会社の社員として入国するのかが厳密にヒモ付きになります。
したがって、転職ができないわけはありませんが、前の会社を辞めて次の新しい会社に就職する際には、①在留資格の変更が必要な場合(異業種の会社の転職する場合)は、入社前に行う。②外国人本人が、入国管理局に「契約機関に関する届出」を行う、という手続きが必要になります。

類似のケースについて先輩の行政書士先生の経験を伺うと、米国では契約期間の満了にこだわらず、自分にとって一定の成果を収めたと納得できる場合、次の就職先が決まっていないうちに、まず、退職してしまうというケースによく遭遇すると嘆いておられました。
転職する場合、前の会社を辞める前に、次の会社との契約ができていなければ、無職の期間が生じてしまうことになり、日本のルールではアウト!になります。

米国と異なり、訪日している外国人が日本で「創業」するということは、そもそも、在留資格の変更になること、その手続きに際して、無職の期間はNGなので、後々、やっかいなことになりかねないということを知っておく必要があります。
多少、不自由さを感じる場面があることは承知ですが、このような一定の「縛り」があることによって、不法滞在者が生まれることを防いでいるものと感じます。