政府のデジタル・ガバメント実行計画;マイナンバーに触れるまえに
政府は、12月20日に「デジタル・ガバメント」を目指すことを閣議決定しました。
それを受けて、日経新聞の記事などでも閣議決定の概要は紹介されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53594370Q9A221C1EA3000/
重要なポイントは示されていますが、踏み込んだ解説は少なく、読者の目を「マイナンバーカード」に向かうようにしているように思えます。(マイナンバーカードに関しては、政府が何を行いたいかという点と、普及に際しての課題などについて、別の機会にあらためて触れます)
約1年半の時間をかけて「デジタル・ガバメント」をどう実現するかということに関して閣僚会議で議論を重ねてきたので、そのなかには、たいへん重要な内容も含まれています。例えば、行政手続きを変革する上で必要な基本スタンスです。「サービス設計 12 箇条」として示されています。
<サービス設計 12 箇条>
第1条 利用者のニーズから出発する
第2条 事実を詳細に把握する
第3条 エンドツーエンドで考える
第4条 全ての関係者に気を配る
第5条 サービスはシンプルにする
第6条 デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
第7条 利用者の日常体験に溶け込む
第8条 自分で作りすぎない
第9条 オープンにサービスを作る
第 10 条 何度も繰り返す
第 11 条 一遍にやらず、一貫してやる
第 12 条 情報システムではなくサービスを作る
この各条の一つ一つに触れたいところですが、気になるところだけ、ピックアップします。
◆第5条 サービスはシンプルにする
「利用者が容易に理解でき、かつ、容易に利用できるようにシンプルに設計する。初めて利用する人やデジタル技術に詳しくない人でも、複雑なマニュアルに頼らずとも、自力でサービスを利用して完結できる状態を目指す。また、行政が提供する情報や、利用者に提出や入力を求める情報は、真に必要なものに限定する。」とされています。
前半は利用者の側にたって「複雑なマニュアルに頼らずとも、自力でサービスを利用して完結できる」ような仕組みを作るということで、大いにけっこうだと思います。
ただし後半。「情報」について書かれたものですが、
①行政が提供する情報
②利用者に提出や入力を求める情報
これは、全く別のものです。②の「利用者に提出や入力を求める情報」とは、行政手続きの際に提出しなければならない添付書類などを指していますが、不要なものは極力削除して行政側が判断を下すために必要最小限のものにするという方向性は、ぜひ、お願いしたいところです。
一方の①「行政が提供する情報」はどうなんでしょう。これを一緒くたにして「真に必要なものに限定する」となっていますが、どういうプロセスで、例えば、決定が却下になったのか、というような内容が分かりにくくならないことをお願いしたいと思います。
◆第7条 利用者の日常体験に溶け込む
これは、何を言っているのか、ちょっとわかりずらいかと思います。閣議決定の内容を読んでみますと、「サービスの利用費用を低減し、より多くの場面で利用者にサービスを届けるために、既存の民間サービスに融合された形で行政サービスの提供を行うなど、利用者が日常的に多くの接点を持つサービスやプラットフォームとともにサービスが提供されるような設計を心掛ける」となっており、要は、すでに民間で類似のサービスが提供されているものに関しては、それに相乗りする、というような方向を目指すということが言いたいようです。
◆第8条 自分で作りすぎない
これは、なんのことでしょう。「サービスを一から自分で作るのではなく、既存の情報システムの再利用、既存の民間サービスで達成できないか」ということでした。かなり、行政内部で処理を完結させるのではなく、民間への委託も含めて、行政手続きの仕組みを再構築していくということが強調されています。
◆第 10 条 何度も繰り返す
◆第 11 条 一遍にやらず、一貫してやる
このあたりも面白いスローガンです。「何度も確認と改善のプロセスを繰り返しながら品質を向上させる」、「優先順位や実現可能性を考えて段階的に実施する」ということを言っています。
◆第 12 条 情報システムではなくサービスを作る
そして、最後の条文です。
「全てを情報システムで実現するのではなく、必要に応じて人手によるサービス等を組み合わせることによって、最良のサービスを利用者に提供することが目的である」と戒めています。「デジタル、デジタル」と機械に置き換えることが目的ではなく、利用者にとって最良のサービスを提供することが本来の趣旨なんだ、ということでまとめています。ただ、ここで、あえて、「必要に応じて人手によるサービス」ということが出てきます。趣旨は立派です。「担当官の裁量しだい」というような方向に後戻りすることなく、心の通ったサービスに向かうことを期待したいと思います。