デジタル遺言;まずは遺言書保管制度がスタート
「遺言」という手続きがあります。
欧米に比べて、日本ではあまり用いられていないというデータがあります。
公証役場で作成する「公正証書遺言」は年間約10万件、一方、「自筆証書遺言」として作成されたものを家庭裁判所が検認するものが年間2万件弱です。もめごとに至らない家族間での合意のような覚書のようなケースはもっと数が多いのかもしれません。
前者の「公正証書遺言」は数年来大きな件数の増減がない一方、行政サービスの利便性を向上させる観点から、「自筆証書遺言」に関しては、法手続きを簡素なものにする方向で法改正が進んでいます。
代筆による偽装や改ざんを防止する観点から、遺言はすべて遺言者本人の手書きでなければならないとされています。ただし、法改正により、相続財産の目録などの帳票はパソコンで作成したものに署名・押印をすればよいことになります。
さらに、令和2年7月10日から、その自筆の遺言書を法務局が預かってくれる制度がスタートします。
なにが便利かといえば、法務局では原本を保管すると同時に、預けたその遺言書をスキャナーで写し取り、「画像データ化」します。遺言者は後ほど、タブレット端末などで何度でも見ることができます。
また、この手続きにより、従来は、自筆の遺言の場合、家庭裁判所の「検認」という手続きが必要だったものが要らなくなります。
さらに、相続人には、そのような遺言が保管されていることについての通知を受けることになります。この段階では遺言の内容までは通知されませんが。
戦前の旧民法の場合、相続といえば、「家」の問題でしたので家督を継ぐ長男の役割と相続を受ける人が決まっておりましたので、争いごとに発展するケースは少なかったものと思われます。
ところが、戦後の民法では、子供が複数の場合、平等の権利が与えられるようになりました。仲の良い家族の場合は相続をめぐって争うことも少ないものと思いますが、必ずしもそういうケースばかりではありません。さらに面倒なのは、家や土地のような不動産がある場合、資産価値は高額になりますし、売却しなければ分けるわけにはいきませんので相続を受ける人の共有になってしまいます。実質的には、家をとるか金銭をとるか、といったような配分をめぐって争いに発展する余地が生じてしまいます。
裁判が長引いたり、結果として放置されてしまう不動産が増加したり、様々な弊害が指摘されています。
ですので、公証役場で公証人がしっかり作成する「公正証書遺言」を作れば安心なのですが、お金もかかりますし、同じ県内に数か所しかない公証役場に出向くのも面倒です。したがって、相続をめぐる裁判沙汰を削減する方策として、自筆の遺言の手続きを行政がサポートする方向に向かっているものです。
令和2年度から、遺言書を法務局に預けると、スキャナーで読み込まれて「デジタル」になります。それをさらに進めることができないものかと考えてみました。つまり、パソコンで選択肢をクリックするだけで完成する「デジタル遺言書」です。しょせん、遺言書のなかみは、土地や財産を被相続人にどのように分配したいと遺言者が希望しているかを書き留めたものですので、「財産目録」をパソコンで作成することが認められたわけですから、そのリストの横に、相続人のAさん、Bさん、あるいは、その分配の比率を記入十分ではないかという考えです。この件をもう少し掘り下げてみます。