行政のデジタル化へ向けた先行事例
デジタル庁が誕生して中央省庁ではトップダウンでいろいろな改革が行われていくものと思われますが、地方自治体の業務は単純ではありません。種類の多さに加えて、各地方自治体が独自の取り組みを行うことも可能です。住民票の写しを出してもらう申請書なども、書式は各市町村で様式が異なっています。
一方、各地方自治体の職員の数も減少傾向にあるなかで業務改革を行わなければ、一定のサービスさえ維持できない状況にきています。そこで「デジタル化」がその象徴として叫ばれています。
ただし、なんでもパソコンに置き換えれば片付くというものではありません。今まで行ってきた仕組みをどういう方向で見直していくのか、相当の労力をかけて、それぞれの自治体が考えていく必要があります。そのために、先行する自治体に様々な実証を行わせて、その経験を水平展開するという試みが行われています。
例えば、千葉県市川市の「来なくて済む市役所」や、岐阜県高山市の「おくやみ窓口システム」があります。
本日は、まず、市川市の「来なくて済む市役所」から。
様々な行政手続きをデジタル化する際に障害になるのが手書きの紙で作成された「申請書」をパソコンに入力しなおす作業が必ずあります。その作業の際をはじめから「紙」ではないものとして住民から提示してもらえれば、ひとつ、作業が削減されます。間違いも防止できます。
ただし、過去の失敗事例は、そのような手続きのために特殊な「アプリ」を作成しても住民の理解度が低かったり使い勝手が悪かったり、結局、低い利用率に終わってしまうケースが多いようです。そこで市川市では、国民が広く利用しているLINEを活用することで、この問題をクリアすることとしました。LINEを利用している市民であれば、市川市を「友達」として登録するだけで、オンライン申請等の機能を使い始めることができるので、障壁がひとつ下がりました。ある調査では、20代~40代の住民は、対面での手続きよりも時間が節約でき、自由度もあるデジタルでの登録のほうを選ぶということです。
2019年3月から、市川市ではLINEによる住民票のオンライン申請を実証実験として開始しました。LINEから送られる質問に対して回答していくだけで、住民票の申請ができ、住民票は自宅に郵送されます。申請に必要な本人確認は運転免許証などをスマホで写真に撮りLINEで送ります。手数料の支払いはLINE Payで行うのだそうです。申請から受け取りまで役所に足を運ぶ必要がなくなります。
「実証実験」だとか、大げさな言い方がされていますが、インターネットで品物を購入する際に、普通に行われている手順と同じことです。それを取り入れたにすぎません。ただし、このようなことが最初の一歩になります。
インターネットを通じたやりとりなので、詐欺や「なりすまし」が起きないかなど、気にしだせばキリがありません。もし、そのような犯罪が行われれば、その都度、改善していけば十分なのだろうと思います。デジタル化に切り替えていく際には、そのような進め方、それを「アジャイル」な手順と呼ぶそうですが、改善や変化していくことも許容することもひ必要ということです。
(写真は「写真AC」の まつなが ひでとしさんからいただきました)