行政手続きのデジタル化;始まっている試み

様々な行政手続きをデジタル化する方向で改革が進められています。「すぐ使えて」、「簡単で」、「便利な」ということだと思います。新型コロナの感染拡大防止に関して、国民に一律に給付金を支給するのにも、いちいち銀行口座番号を各自が申請し、そのデータと住民基本台帳を突き合わせるというような作業を毎回続けるのは、たいへんな労力だと思います。せっかく政府に銀行口座を連絡しても、個人情報保護法のおかげで、その情報は、今回の目的限りで、ほかのことに流用しません、ということになっています。行政内部の書類の流れのデジタル化と並行して、そのような行政と手続きを申請する住民との間のインターフェイスの改良・改革が不可欠で、「印鑑不要」あるいは「印鑑廃止」についても、そのような取り組みの一環だと理解しています。

総務省から「スマートシティへの転換は、こうして実現」というタイトルの文書が公開されています。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000630716.pdf

その冒頭に、次の3点が掲げられています。

①申請等のオンライン化:家庭のインターネット環境で24時間365日申請可能に
②AI等の導入、共同利用等の推進:クラウドAIの標準化や共同利用等により安価・高品質なサービス利用が可能に
③システムの標準化:法改正対応や更新時のためのシステム改修の負担が大幅減

ただし、新しい行政手続きの仕組みを1,741もある市区町村に一律に展開するのは至難の業だと思われます。現状では、それぞれの中の仕組みが微妙に異なっているからです。

したがって、テーマを示し、新しい取り組みを行い自治体を公募して、先行してやらせてみる、という手法が採られています。

そのなかの一つに、北海道北見市と千葉県船橋市が始めている「書かない窓口」というものがあります。簡単にご紹介します。

転居などに伴い市役所へ手続きいくことを想定します。「住民票の移動届」や各種の手続きが必要になります。それをこの北見市や船橋市が始めた「書かない窓口」では、住民に申請書を書かせません。

「どういうご用件ですか」と窓口の係りが口頭で聞きます。「最近、ここに引っ越してきたので」と答えて、運転免許証を差し出し、本人であること、登録したい新しい住所をこれも口頭で伝えます。すると、窓口の係りの人は、「紙に書いてください」と言わず、パソコンの入力を始めます。「移動届」や「児童福祉の給付金」など様々な変更事項があります。それら一連の変更手続きをいっぺんに職員が入力することで代行してくれる、という仕組みのようです。

これまでは、複数の手続きが必要な場合、いちいち別の「申請書」に記入し、印鑑を押してもらっていました。その際、何度も、「ここはどうやって書いたらいいですか」というようなやりとり×N倍の労力がかかっていました。それを一人の職員が全部いっぺんに片づけてくれるので、口頭でのやりとりは、結果として労力の負担増加にならないということです。

そういうものかと感心しました。住民は「デジタル」な機械に触れる必要がない、ただ窓口で用件を伝えれば、係りの人がパソコンで片づけてくれるというのは、高齢者にとってもたいへん便利なものです。印鑑もそうですが、「紙文化」の終焉です。

今回の事例は総務省のもので、住民票や戸籍の変更に関するものでした。国土交通省や経済産業省の許認可の申請も同様に、まず、紙を無くするという方向に進むことを願っています。

誰もが一律にデジタル端末に触れる必要がなく、ケースによっては「窓口の係りの人」が「専属の行政書士1名」で済むのかもしれないということを夢想してみました。

(イラストの著作権はジブリです。本文とは関係ありません。「耳をすませば」からいただきました)