民法改正(いよいよ4月1日に施行される「債権法」);⑥「売買,消費貸借,約款」などの契約関係のルールが変わります
昨日は、1970年に大坂で万国博覧会が行われた際の開会式が行われた日ということを新聞で知りました。50年が経過しています。「万国博に原子の灯を」を合言葉にし、関西電力美浜原子力発電所1号機から万博会場に電気が届いたのは、70年8月8日です。当時は夢のエネルギーと称されていました。その1号機は営業運転から45年を経て、2015年に役目を終えました。世の中、いろいろな変化があるものです。
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さて,民法のなかで、主に契約に関係する、「第3編」債権法の改正が2020年4月1日に施行されます。
「この債権法については 1896 年(明治 29 年)に制定されてから約 120 年間にわたり実質的な見直しがほとんど行われていませんでした。今回の改正では,
①約120年間の社会経済の変化への対応を図るために実質的にルールを変更する改正と
②現在の裁判や取引の実務で通用している基本的なルールを法律の条文上も明確にし,読み取りやすくする改正を行っています」というのが改正の趣旨です。
「保証」、「損害賠償」、「賃貸借契約」に続いて、今回は、「売買,消費貸借,定型約款」などの契約関係のに関するルールの改正です。いずれも、契約を行う際の重要なものですが、今回の改正は以下の3点について行われます。
①売買契約に関するルールの見直し
②消費貸借契約に関するルールの見直し
③約款(定型約款)を用いた取引に関するルールの見直し
1.売買契約に関するルールの見直し
売主が引き渡した目的物が種類や品質の点で契約内容と異なっていたり,数量が不足していた場合に,売主が負う責任に関するルールの見直しです。要するに「契約内容に適合していなかった場合」の対応です。
そのような場合、買主は、損害賠償請求や契約の解除をすることができるわけですが、あいまいな点もありました。
⇒改正後の民法では,買主は,売主と買主のいずれに帰責事由があるかに応じて,損害賠償請求や解除のほか,修補や代替物の引渡しなど完全な履行を請求することや,代金の減額を請求することができるようになりました。
ただし,買主がこれらの請求をするためには,引き渡された商品が契約に適合していないことを知ってから一年以内に,売主にその旨を通知する必要があります。
・契約を解除するための要件の見直し
今回の改正は、例えば、パソコンを購入する契約を結んだ後で、その会社が落雷による工場の火災などにより,納期を過ぎてもパソコンは納品されず,工場が復旧する見込みも立っていないような場合に、パソコンが納品されないと事業に支障が生ずるので,別の業者からパソコンを購入したい、そのために当初の購入契約を解除したい、という事例に対応するものです。
改正前の民法では,契約の解除をするためには,債務を履行することができなかった者に帰責事由があることが必要でした。(上記の事例ではパソコン製造会社)
⇒改正後の民法では,債務を履行しなかった者に帰責事由がない場合にも,売買契約を解除することができることになりました。このような場合に、当初の契約を解除して安心して新たな取引先を探すことができるようになりました。
2.消費貸借契約に関するルールの見直し
「消費貸借契約」とは,何かを借り受け,後にそれと種類,品質,数量の同じ物を返還
することを約束する契約です。代表的なものとしては,金銭の貸付けがあります。
・消費貸借契約の成立に関するルール
改正前の民法では,消費貸借契約は,条文上,金銭等の目的物が借主に交付されてはじめて成立するとされ,当事者間の合意のみでは成立しないとされていました。
⇒改正後の民法では,当事者間の合意のみで成立する消費貸借契約に関する明文の規定を設けた上で,軽率な契約の成立を防ぐため,書面ですることを要件としています。
・消費貸借契約の解除についてです
⇒改正後の民法では,消費貸借契約の借主は,目的物を受け取るまでは,契約の解除をすることを認めています。また,借主がこの解除権を行使したことによって,貸主に損害が現に発生した場合には,貸主は,借主に対し,その損害の賠償を請求することができることとしています。
・契約で定めた期限より前に目的物を返還する場合に関するルールです
⇒改正後の民法では,借主は,返還時期の定めの有無にかかわらず,いつでも目的物を返還することができるという規定を設けています。また,借主が返還時期より前に返還したことにより,貸主に損害が現に発生した場合には,貸主は,借主に対し,その損害の賠償を請求することができるとの規定を設けています。
・保証に関するルールの見直し
個人が保証人になる場合の保証人の保護を進めるため,次のような改正をしています。
①極度額の定めのない個人の根保証契約は無効
②公証人による保証意思確認の手続を新設
この「保証」に関する改正については、別のところで詳しく解説しています。
3.約款(定型約款)を用いた取引に関するルールの見直し
不特定多数の顧客を相手方として取引を行う事業者などがあらかじめ詳細な契約条項を「約款」として定めておき,この約款に基づいて契約を締結する場合の改正です。
例えば、次のような取引に適用されます。
①インターネットを利用した取引
②電車・バスなどの乗車に関する取引
③保険や預貯金に関する取引
・定型約款が契約の内容となるための要件
定型約款を契約の内容にするためには,①当事者の間で定型約款を契約の内容
とする旨の合意をするか,②取引を実際に行う際に,定型約款を契約の内容とす
る旨を顧客に「表示」しておく必要があります。
大事な点は、①や②が満たされると,顧客が定型約款にどのような条項が含まれるのかを知らなくても,個別の条項について合意をしたものとみなされます。他方で,信義
則に反して顧客の利益を一方的に害する不当な条項は,①や②を満たす場合でも,契約内容にはなりません。
・定型約款を変更する場合のルール
定型約款の変更は,①変更が顧客の一般の利益に適合する場合や,②変更が契約の目的に反せず,かつ,変更に係る諸事情に照らして合理的な場合に限って認められます。顧客にとって必ずしも利益にならない変更については,事前にインターネットなどで周知をすることが必要です。
なお、よく、約款中に「当社都合で変更することがあります」と記載されていることがありますが,一方的に変更ができるわけではないということを知っておくと不利益を被る機会を減らすことができるものと思われます。
ここまで、様々な契約に関する民法改正の内容を見てきました。大きな変更なので、それぞれに経過措置が定められています。別の機会に、そのような「経過措置」をみていくことにします。