2040年を見据えて;福祉事業者の大規模化が進む
2040年頃に高齢者の人口はピークを迎え、着実に国の社会保障関係の支出は増え続けます。「2040年を展望し、誰もがより長く元気に活躍できる社会の実現を目指す」という政府の方針に沿って「地域包括ケア」なども充実の方向に向かうと思われます。
そもそも、介護保険の制度は、2000年にスタートした制度です。すでに、20年が経過しています。スタート当初から、医療・福祉関係の事業者だけではなく、外食産業や教育産業など、様々な業界の企業がこの分野に参入してきました。
「介護保険」の制度発足前は、介護を必要とする高齢者に対するサービスの提供は、自治体(市区町村)主体で行われ、ケアの手法や入所する施設の選定などについて、利用者や家族の意向が汲まれることはありませんでした。これは「措置制度」と呼ばれています。一方、欧米諸国では、医療と同じように高齢者の介護にも保険制度が導入されており、日本でも利用者主体のケアの必要性が考えられるようになりました。あわせて社会保障費のひっ迫もあり、これまで税金で担っていた各自治体の負担を減らす代わりに、国民の所得から「保険料」という形で財源を集め、利用者はわずかな自己負担で介護サービスを受けられる仕組みがスタートしたのです。現在の介護保険の財源は、半分が納付された保険料で、残る半分が国・都道府県・市区町村による公費となっています。したがって、事業者の側からみると、資金の出所が「税金」から国民が負担する「保険」に変わったことにより、確実に財源が確保されたことを意味し、ビジネスの大きなチャンスととらえて、この分野も、いささか過当競争ではないかと思えるほどに成長してきました。
この先はどうでしょう。高齢者は増え続けます。国民は保険料として一定の負担をし続けますが、問題は、支える層の人口減少が加速します。したがって、野放図にかかった費用をそっくり福祉関係の事業者が享受するという構図に一定の枠を設けなければ、福祉財政が立ち行かなくなります。それに連動して、一人当たりの国民の負担増加によって何度も制度の見直しが図られてきています。加えて、人手不足なのに、健康寿命を延ばすための地域包括ケアなどのサービスの強化をやっていくことも必要になってきます。
そのような背景から、政府のこの分野の資料には、さかんに、デジタル化、ロボットやITの導入が示されています。たくさんの人の手に変わって、機械に置き換えていくことで、「働きやすい」環境を作っていこうという方向性です。サービスを受ける側の高齢者のデータも一元化された管理が進んでいくものと思われます。
そうなると、ロボットやITの導入が容易にできるだけの体力がある企業が優位になります。設備投資によって人件費を削減できれば、さらに安い福祉サービスが提供できることにつながり、企業間の競争にも有利に作用します。そのような大きな波が、2040年に向けて進行していくということを認識しておく必要があります。
福祉事業者の統廃合などの淘汰が進み、大規模化に向かう見通しがありますが、さて、それは、サービスを受ける側にとってどうなのでしょうか。コンピューターやロボットに置き換えることによって、無駄を省き、結果として国民の費用負担が減るのであればけっこうなことのように思われます。ただ、途中のプロセスでは、いち早く、デジタル化の投資をするような提案に補助金が付いたりしますので、うまく使いこなせるか、患者さんの側がほんとに必要としている機械やサービスなのかということをしっかり把握することなく、どんどん、装置が導入されていくのではないかということが懸念されます。
行政書士の業務の関連では補助金申請のサポートなどの局面でその波に乗じて、一時的に業務が盛んになるかもしれません。ただし、いきつく先は、事業者の大規模化、すなわち、福祉事業者の数自体は減少に向かうことも合わせて認識しておく必要があるように思います。