民法改正(マスコミはあまり触れない債権法);「賃貸借契約」のルールが変わります
民法のなかで、主に契約に関係する、「第3編」債権法の改正が2020年4月1日に施行されます。
「この債権法については 1896 年(明治 29 年)に制定されてから約 120 年間にわたり実質的な見直しがほとんど行われていませんでした。今回の改正では,
①約120年間の社会経済の変化への対応を図るために実質的にルールを変更する改正と
②現在の裁判や取引の実務で通用している基本的なルールを法律の条文上も明確にし,読み取りやすくする改正を行っています」というのが改正の趣旨です。
「保証」、「損害賠償」に続いて、今回は、「賃貸借契約」に関するルールの改正です。
そもそも「賃貸借」とは、
「当事者の一方(賃貸人)がある物を相手方(賃借人)に使用・収益させ,借主がその賃料を支払うことを約束する契約です。例えば,アパートの一室や自動車などを賃料を支払って借りる契約が賃貸借契約に当たります。」
ということで、家を借りる場合に限らず、いろいろなシーンが想定されています。また、改正は、次の3つの場面に関するものです。
①賃貸借継続中のルール
②賃貸借終了時のルール
③賃貸借契約から生ずる債務の保証に関するルール
1.賃貸借継続中のルール
・賃借物の修繕に関する要件の見直し
借りている建物が雨漏りするなど,賃借物の修繕が必要な場合です。
賃借物はあくまで賃貸人のものですから,賃借人が勝手に手を加えることはできません。しかし,実際に賃借物を使っているのは賃借人ですから,賃貸人が修繕してくれない場合でも賃借人は一切自分で修繕することができないとすると,不便です。改正前の民法には,どのような場合に賃借人が自分で修繕をすることができるのかを定めた規定はありませんでした。
⇒改正後の民法では,
① 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知したか,又は賃貸人がその旨を知ったのに,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
又は
② 急迫の事情があるとき
には,賃借人が目的物を修繕することができることとされました。
これにより,上記①や②の場合には,賃借人が目的物を修繕したとしても, 賃貸人から
責任を追及されることはないことが明確になりました。
・賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化
建物の賃貸借契約が続いている間に建物の所有者が代わった場合についてです。
新しい所有者は賃料を請求できるかについて明確になっておりませんでした。
⇒不動産の譲受人(新たな所有者)が,賃借人に対して賃料を請求するためには,
貸借物である不動産の所有権移転登記が必要である旨の規定を設けました。
2.賃貸借終了時のルール
・賃借人の原状回復義務及び収去義務等の明確化
改正後の民法では,賃借人は,賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復
義務を負うこと,しかし,通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないこと
が明記されました。
「通常損耗・経年変化に当たる例」
●家具の設置による床,カーペットのへこみ,設置跡
●テレビ,冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
●地震で破損したガラス
●鍵の取替え(破損,鍵紛失のない場合)
「通常損耗・経年変化に当たらない例」
●引っ越し作業で生じたひっかきキズ
●日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備等の毀損
●タバコのヤニ・臭い
●飼育ペットによる柱等のキズ・臭い
・敷金に関するルールの明確化
改正後の民法では,敷金を「いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました。
その上で,判例に従い,賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で敷金返還債
務が生じること,その額は受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭債務の額を控除
した残額であることなどのルールを明確化しています。
3.賃貸借契約により生ずる債務の保証に関するルールの見直し
・賃貸借契約により生ずる債務の保証に関するルールの見直し
「極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効」というルールに関連するものです。「保証」については、別のところで解説しています。
これらの改正は、従来の民法で不十分だったところ、いろいろな判例で取り扱いが定まってきたものをわかりやすく反映するための条文改正です。いずれの項目に関しても、それほどの違和感なく受け入れられるものだと思います。