民法改正(いよいよ4月1日に施行される「債権法」);④「損害賠償請求」のルールが変わります
民法のなかで、主に契約に関係する、「第3編」債権法の改正が2020年4月1日に施行されます。
「この債権法については 1896 年(明治 29 年)に制定されてから約 120 年間にわたり実質的な見直しがほとんど行われていませんでした。今回の改正では,
①約120年間の社会経済の変化への対応を図るために実質的にルールを変更する改正と
②現在の裁判や取引の実務で通用している基本的なルールを法律の条文上も明確にし,読み取りやすくする改正を行っています」というのが改正の趣旨です。
「保証」に続いて、事件や事故の際に発生する「損害賠償」のルールが変更になります。どういうケースかといえば、「不法行為責任」と「債務不履行責任」です。
「不法行為責任」とは?
故意又は過失によって,他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,こ
れによって生じた損害を賠償する責任を負うとされており, これを不法行為責任とい
います。不法行為責任は,交通事故が発生した場合など,契約関係等のない当事者間
でも成立します。 例)交通事故によって傷害を負った場合
「債務不履行責任」とは?
事件・事故の加害者と被害者の間に契約があるなど,加害者が被害者に対して義務を負っている場合に,加害者がその義務を履行しなかったために被害者が損害を被ったときは,加害者は被害者に対してその損害を賠償する義務を負います。これを債務不履行責任といいます。 例)病院での手術ミスで後遺症が残った場合
1.権利を行使することができる期間に関する見直し
改正前の民法では,権利を行使することができる期間が次のようになっていました。
「不法行為に基づく損害賠償請求権」
損害及び加害者を知った時から3年以内であり,かつ,不法行為の時から 20 年以内
「債務不履行に基づく損害賠償請求権」
権利を行使することができる時から 10 年以内
これが、今回の改正で、2020年4月1日から変わります。
期間制限については,人の生命又は身体が侵害された場合であるか, その他の利益が侵害された場合であるかの区別はされていませんでした。
改正後の民法では,人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権について,特別に権利を行使することができる期間を長くすることとしました。具体的には, 不法行為と債務不履行のいずれの責任を追及する場合でも,人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間は,損害及び加害者を知った時(権利を行使することができることを知った時)から 5 年,不法行為の時(権利を行使することができる時)から 20 年になりました。
2.中間利息控除及び遅延損害金に関する見直し
「法定利率」が年5%から年3% に引き下げられ,さらに,市中金利の動向に合わせて3年毎に法定利率が自動的に変動する仕組みが導入されています。それに連動した改正です。損害賠償額の算定にも、この利率の改正が適用されます。
例)事故により、毎年200万円の収入を得る機会が10年間にわたって損なわれた場合
・改正前(5%) 2000万円を現在価値に直して、1540万円
・改正後(3%) 2000万円を現在価値に直して、1700万円
また、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年又は不法行為の時から 20 年で消滅時効が完成しますが、期間が長いため、改正時点の2020年4月1日をまたぐケースもあります。
経過措置として、生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間については,施行日の時点で改正前の民法による不法行為の消滅時効(「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」)が完成していない場合には,改正後の新しい民法が適用されます。
つまり、2017年4月1日以降に起きた事件・事故で、2020年4月1日の時点で損害賠償請求が完成していない場合は、改正後の新しい民法(法定利率3%)が適用されます。
いろいろな法制度が変更になる局面ですので、このような「経過措置」にも十分な注意を払う必要がありそうです。